2015-02-04

Toshiyuki Yasuda: Nameless God's Blue



SOLO ALBUM (5th)

Toshiyuki Yasuda: Nameless God's Blue
[MEGADOLLY MD1506]

WORKS by The Institute of Music and Environment (TIME), Amazon.co.jp, Tower Records, Disk Union,
App Icon Apple Music
Spotify, YouTube, Amazon Music, e-onkyo, Ototoy (hi-res)

1. La pesanteur (MV)
2. Sei gradi di separazione
3. Don't Miss the Time
4. Ironic Dance
5. Don't Think It's to Be Down
6. Alpha Helix
7. Spa On the Moon
8. Falling Stars
9. My Fiendish Heart
10. Wings
11. By Grace of Blue
12. Journey's End in the Eastern Evening Sky





Drums: Norihide Saji
Contrabass: Keiji Matsui
Vocals, Piano, Vibraphone, Celesta: Toshiyuki Yasuda
Guitar, Duet Vocals on 12: Toshihito Tsushima (The Firefly Clan)
Viola: Izumi Kawamura
Duet Vocals on 1: Takako Sato (fantaholic)
Duet Vocals on 2: Viola d'Acquarone

Recorded: Keiji Matsui at echo and cloud studio, Tokyo
Except
Vocals, Vibraphone, Celesta, Guitar: Toshiyuki Yasuda at home, Tokyo & Sunset Music Studio, Okinawa
Vocals by Takako Sato: Takashi Watanabe at Takashi's studio, Tokyo
Vocals by Viola d'Acquarone: Emilio Pozzolini at Butcher Studio, Genova
in 2012 - 2014

Mixed, Mastered: Toshiyuki Yasuda at home, Tokyo

Artwork: Reylia Slaby
Liner Notes: Kentaro Takahashi
Designed: Manabu Masuda (A-T-N) & Toshiyuki Yasuda
Printed: Asahi Seihan Printing co.,ltd.

Produced: Toshiyuki Yasuda



安田寿之5thソロアルバム。「ロボットが歌うブラジル音楽」、「全曲モノラルのコンピレーション」、「世界の童謡の電子音楽カバー」など、これまで強いコンセプトの元制作してきたスタンスを変え、主観を軸に生歌・ピアノを中心にした生楽器を用いシンガー・ソングライターのような楽曲をイージーリスニングやジャズのような雰囲気でアレンジした雄編。ドリーミィーなメロディーとピアノ、リラックスしつつも力強いドラム・ベース・ギター、息づくような弦楽器、煌びやかな鉄琴楽器が混じり合うLaid Back Music。2年程かけ、じっくり作曲、レコーディングを行った。レコーディングは、echo and cloud studio(東京)、沖縄、ジェノヴァなどで行った。特に、ピアノは10本のマイクで録音するなど質感にこだわっている。アルバムを通して、一つの楽器を一人のミュージシャンが演奏している。

Toshiyuki Yasuda’s 5th solo album. Apart from continuous elaborated concepts such as “Brazilian music sung by a fictitious robot” or “all monophonic compilation album” or “electronic covers of world’s children’s songs”, the album are comprised of the subjectivity, specifically consists of compositions of singer-songwriter feel and arrangements of easy-listening / jazz style, which should be bracing and profound masterpieces. The music itself is a laid-back music with dreamy vocals / piano, relaxed but mighty drums / bass / guitar, vibrant viola and noble glockenspiels. The album was thoroughly recorded in Tokyo, Okinawa and Genova from 2012 to 2014. Instruments were recorded very carefully especially piano was captured by 10 microphones. As a result, the sound has an exquisite presence.


1. La pesanteur
(Music: Toshiyuki Yasuda, Lyrics: Takako Sato)
ⒸToshiyuki Yasuda, MCJP

「重力」(ラ・プゾントゥール)という意味のタイトルのこの楽曲は2012年に父親になりできたものだが、少し不思議な体験に基づいている。柿の木坂を上り病院に子供に会いに行っていた出産直後のことを後に思い返している時、なぜか自分の目線ではなく外から自分を見ている、まるで映画のような映像で思い出した。自らも新しく生まれ変わったように春の風を受け弾むような気持ちで自転車のペダルを漕ぐ自分と、斜め上のアングルでそれを追うもう一人の自分。fantaholicの佐藤多歌子さんにこの二重性の話をしフランス語で歌詞を書いていただき、デュエットした。

2. Sei gradi di separazione
(Music: Toshiyuki Yasuda, Lyrics: Viola d'Acquarone & Gak Sato)
ⒸToshiyuki Yasuda, Viola d'Acquarone, Gak Sato

元々、TVドラマのテーマのプレゼンで作曲した。もっとテンポの速いジャズワルツのインストだったが、イタリア語の歌詞を付け3拍子から4拍子にドラマティックに展開するように再構成した。イタリア語歌詞は、以前から共作したかったGak Satoさんにお願いしViola d'Acquaroneさんと共作していただいた。テーマは「六次の隔たり」だそうだ。6人を介すると世界中の人と繋がる、という社会実験。宇宙人に出会ったらよろしく、というオチが付いている。ドラマの仕事は決まらなかったが、そのおかげでこんな風にフレッシュに曲を生き返らせることができた。

3. Don't Miss the Time
(Music: Toshiyuki Yasuda, Lyrics: Emi Hiraki & yorico latina)
ⒸToshiyuki Yasuda, Wizard Publishers ltd.

10年以上前に開恵美さんに作曲した曲をセルフカバーした。アレンジもテンポも元曲に近いが、ギターを津嶋利仁さん(The Firefly Clan)に弾いていただき、男っぽくなる方向性ができた。今回、津嶋さんにストロークギターをたくさん弾いていただいている。ストロークギターというのは、リズム機能もあり音調機能もあり最強の楽器奏法の一つだと思っている。これまでRobo*Brazileiraとしてロボ声で歌ってきたが、今回生で歌っている。ここまでの2曲はデュエットだが、この曲からソロになる。決して歌はうまくはないが、曲全体をどうしたいかという明確なイメージで成立させている。最小限度のシンプルな楽器構成だが、曲の構成と少しサイケデリックなミックスで持たせている。今はもう、こんな冒険したBメロのようなコードワークは作れないかもしれない。サビの前のC#7/Bが気に入っている。

4. Ironic Dance
(Music: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda
チャップリン映画のエンドロールのようなイメージのピアノ曲。2013年に制作したフレンチレストランのためのアルバム「Les Rendez-vous de Tokyo 20130606」に、オリジナルヴァージョンが収録されている。サイレント映画的な早回しのようなドタバタした曲だったが、今回は和音を堪能できる位のテンポにした。

5. Don't Think It's to Be Down
(Music & Lyrics: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda

篠山紀信さんの写真映像作品に作曲した元曲ではロボ声で歌っていたが、今回は他曲同様生で歌った。イントロからAメロにかけての曲詞ともに、あっと言う間にできた覚えがある。篠山さんの仕事は量も多かったので1-2日で仕上げるようにしていたが、時間や条件の制約の中でつくると、火事場的な力により思いがけない成果が出ることがある。この曲もそういう生来を持っている。松井敬治さんのコントラバスのフレーズが、たまにしか喋らないけど一言が意義深い人のようで、とても効いている。ピアノは、マフラーペダル音からいつの間にかノーマル音にモーフィングする。アコースティックなアルバムだが、随所に電子音楽を経過した処理がされているのがこのアルバムの特徴と言える。

6. Alpha Helix
(Music: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda
前曲が賛美歌のように天上に昇っていくようなイメージで終わるので、一度地に足を付ける曲がほしいと思いつくった。螺旋階段のイメージ。だが、階段を下りると地は地でもそこは月であった(次曲)。

7. Spa On the Moon
(Music & Lyrics: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda

涼音堂茶舗レーベルのコンピレーション「over flow」へ提供したのが元曲だが、この曲だけを色んなアーティストにカバーしてもらうEPを作る程自分でも気に入っている曲。Joe Meek+Dick Hymanのようなイメージの3拍子だったのを4拍子のスウィングにした。ガーシュウィンもジョビンも自分の作曲を何度も色んな編曲を試みるが、作曲家にとって可能性を感じる限り何度もトライしたくなる曲というのはある。

8. Falling Stars
(Music & Lyrics: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda

2013年初頭に企画/主宰した「音楽家の写真展」(1点物の音楽と写真を組み合わせた展覧会)用の曲を、全く違うスタイルで再編した。元曲は売れてしまったので、写真とセットでは僕自身ももうきけない。祖母が亡くなった時に、多摩川の流れを眺めていて曲はできた。詞はなかなかできなくて、大学教務で通う電車の中でスマホで何週にもわたり書いた。少しYo La Tangoみたいなスタイルを意識した。どうやってもあんな太平感は出せないけど。

9. My Fiendish Heart
(Music: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda
桑原茂一さんのコメディ作品につくったのが元曲。ヴィクター・ヤング作曲「My Foolish Heart」のオマージュ。ピアノはこのアルバムでは、松井敬治さんのエンジニアリングでリボンマイクなど8-10本立て録音し、小さな音でも存在感のある音になっている。マフラーペダルによるフェルトや鍵盤に爪が当たる質感が心地いい。

10. Wings
(Music & Lyrics: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda

ある女性タレント(タイトルにヒントあり)の歌手デビュー作のプレゼン用に書いた曲。飛べない鳥の歌。1番はペンギン、2番はニワトリ。元々電子音楽家として知り合った佐治宣英さんのドラムは、ほぼ1テイクでokで部分的に少し録り足した位だった。このアルバムでは、これまでコンセプチュアルな作風だった自分から飛び出したいと思っていた。クールな客観性を捨てバカに見えても主観を大事にするんだ、という気持ちをこの歌詞に込めた。実際は飛べないかもしれないけど、"All the way to you, I'll never veer away".(君のところへ、まっすぐ向かっていく。)

11. By Grace of Blue
(Music: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda
クラシカルな曲だが、ウッドベースにより少しだけジャズ的に。イントロとインタールードは、トリスタン和音。2013年に共作して以来友人の河村泉さん一人で重奏していただいているが、弦楽器も「息づかい」だなと思わせられた。

12. Journey's End in the Eastern Evening Sky
(Music & Lyrics: Toshiyuki Yasuda)
ⒸToshiyuki Yasuda

これも、元々桑原茂一さんのコメディ作品につくったモチーフを発展させた作品。ピアノソロの録音は、dip in the poolの木村達司さんとMorgan Fisherさんと僕とのユニットPortmanteauのアルバムでも使用した。長い曲だが、ベースはずっと変わらない。しかも、間違ったようなマイナーコードに付くフレーズを弾いているが、それがポリネシア感を出している。津嶋さんのギターは、The Firefly Clan(グナワとブルースを合わせたような彼自身のユニット)曲の雰囲気だ。沖縄北谷の海沿いのスタジオで仕上げの録音をした。たった70年前のこと、誰がこの美しい海を見て戦争なんてしたいと思っただろう。長い旅の終わり、永遠に続く夕日、全ての楽器も声も溶け合う宇宙に一つの星を見付けた。



解説(高橋健太郎)

音楽の機能性を重視し、音楽の記名性にはこだわらない。20世紀の終わり頃に現れたDJミュージックやエレクトロ・ミュージックは、そういう志向性を携えているものが多かった。

安田寿之もそんな中に登場した音楽家の一人である。多くの人と同じように、僕が彼の存在を知ったのは世紀の変わり目頃、ヴォコーダーを使った「ロボ声」でブラジル音楽を歌うRobo*Brazileiraの「中の人」としてだった。クラフトワークやYMOの系譜を継ぐエレクトロ・ミュージックであると同時に、歌ものとしての優美さも備え、ユーモラスで人懐っこくもある彼の音楽に、僕は心惹かれた。「ロボ声」を使っているといっても、決してメカニカルな音楽ではない。匿名的な声の使用は、肉声に縛られず、俯瞰的な視点からの人間観察の歌を紡ぐため。そんな彼の音楽への向かい方は、本質的にはシンガー・ソングライターなのではないか、と僕は過去に書いたことがある。

この数年、Toshiyuki Yasuda名義で発表される彼の音楽は、そこからさらにオーガニックな方向に向かい、ゲスト・ヴォーカリストやアコースティック楽器を加えた作品が増えていた。そして、2014年の暮れに完成したこの『Nameless God's Blue』は、近年の活動の中で出会ったミュージシャン達との生演奏を中心に、自らの歌声まで聞かせたアルバムになっている。電子音楽家であったはずの彼が、ついに本物のシンガー・ソングライターになってしまったのだ。

しかし、僕はそのことにはあまり、驚かなかった。過去にも、何人かの友人の音楽家がある日、突然、歌い出すのを見てきたからだ。「ロボ声」の中に姿を潜めている時からすでに、彼の音楽には歌に対する繊細な感覚が張り巡らされていた。だから、いつか歌い出すという予感はあったし、近年の活動の延長線上にあるアコースティックなサウンドは、すっと耳に馴染むものでもあった。

それよりも、僕が驚いたのは...

(全文はCD添付のライナーノーツにて)



cf.
somos (instagram)
North Lake Cafe & Books (instagram)
新川忠のブログ。 (対談)
TYO magazine
Tokyo's Coolest Sound
Vital Weekly (Netherlands)
LIBERO (Italy)
textura (Canada)
Bad Alchemy (page 18) (Germany)
ピース・ニッポン」(中野裕之監督)に、本作より3曲(4, 5, 12)提供。